パステルカラーの悪魔

あるお菓子が食べたくて食べたくて仕方がなくって、短編を書きました。
登場人物は皆さんもよく知る、Seasonsのメンバーです。
でも、少し珍しい組み合わせなので、僕としては書いていて新鮮で楽しかったです。
お読みいただける方はmore以下でどうぞ。

そんなわけで、こちらに登場する頻度が少し上がってきました、隼です。
クリスマスはまたケーキを焼きました。
土台をシフォンケーキにしたのですが、ついにマスターしました。
苦節十年。ようやくつぶれず、穴も開かず、ふかふかの仕上がりでした。満足。

話はそれましたが、久々にロリコンの血が騒いで書いた作品です。
楽しんでいただければ幸いです。
ではでは。






「パステルカラーの悪魔」

 とある午後の昼下がり。否、時刻はちょうど午後三時。芳しい紅茶の香りに包まれながら、甘い誘惑に負けたいところだ。
 事実、僕の真向かいのカフェのテラス席では、天使と見紛うほどの美貌をもつ金髪金目の少女……ごほん。失礼、女性が、淡い色合いの愛らしいスイーツを、小動物のように両手で持って頬張っていた。そして、
「どうしたの、怖い顔して」
僕の隣に座っている、これまた可愛らしい少女――彼女は僕と同い年であるはずなのだが、小柄な体躯に大きな瞳、トレードマークのツインテールも相まって、どう贔屓目に見ても、高校生には見えない。少女と形容して差し支えないだろう――も、生クリームのたっぷりのったショートケーキを嬉しそうに食べている。
「もしかして、鈴笠くんもケーキ食べたかった? 一口食べる?」
「いや、遠慮しておくよ」
 元々、甘いものはそれほど得意ではない。それに、偶然とはいえ、朧月さんと二人でお茶をすることになってしまったのだ。その上、ケーキを食べさせてもらったことが同好会の面々、特に佐倉さんあたりに知られれば、僕の明日はない。比喩ではなく、今日が僕の命日となってしまう。
「でもなんか、想像してたのと違うね」
 僕に食べさせるのは諦めたらしく、自分の口へクリームを運んでから、彼女は言った。
「あれ、本当にデートなのかな?」
 目線の先には、いかにも余所行きの、レースのついたふわふわとしたワンピースを着た、金髪金目の美女――我らが廣野姫幸先輩と、普段と変わらないシャツとジャケット姿の丸眼鏡の少年――参道潤が、向かい合って座っている。
 そう。何の因果か、僕らは偶然に導かれ、姫幸先輩と参道のデート現場を監視しているのであった。



 午後一時五十分。待ち合わせの十分前だが、彼はすでにそこにいて、文庫本をぱらぱらとめくっていた。
「じゅーんちゃーん」
私は彼に気取られないよう気配を消してから背後に回り、いつものように後ろから抱きつく。
「ぐえ」
 普段は周囲にアンテナを張り巡らせ、些細な変化でも見逃さない子なのだが、本を読んでいる時だけは自分の世界に浸ってしまうらしい。
「驚かさないでくださいよ」
 居住まいを正してから、彼は私に向き合った。シャツにジャケットという出で立ちは制服と大差なかったが、彼らしいといえば彼らしい。私はと言えば、潤ちゃんと合法的にデートできるのが楽しみで仕方なくて、気合を入れておめかしをしたのだが、彼は気付いてくれているのだろうか。
「じゃあ、行きましょうか」
 私の不安をよそに、彼はすたすたと歩き始めてしまう。それもそのはず。本来の目的からいえば、人目のあるようなところにいつまでも立ち止まっているのは、あまり得策ではないのだ。そう自分に言い聞かせ、仕方がないと諦めて横に並ぼうとしたら、
「先輩、今日の髪型可愛いですね。ワンピースも、お似合いですよ」
にこりと、こちらを振り向いた。
「あ、ありがとう」
「でも、僕じゃなくて鈴笠の前でしてあげてくださいね」
「うぐ」
 そしてまた、先を歩いていってしまう。釘を刺しつつも、さりげなく褒めてくれるところが、ぬかりないというか。
「ま、待ってよう」
 でも、私は知っている。彼の目はいつも、どこか遠くを見ていることを。

「はい、これ」
 ゆったりと歩きながら、私は封筒を二通、彼に手渡す。本日の目的は非常に残念ながらデートではなく、頼まれていたとある人物の情報を、彼に提供することであった。ちなみに移動しながらなのは、聞き耳を立てられるのを避けるためだ。重要な話は密室か、そうでなければ逆に騒がしいところでさらっと済ませてしまうに限る。
「結論から言えば、セゾンの方はだーめ。足跡も見つけられないわ」
「そうですか……」
 一つは、ほんの少し前までこの街を騒がせていた、気障な怪盗に関して。こちらは探し始めてもうひと月は優に超えるが、これといった目ぼしい情報はない。
「先輩でダメなら、彼らに関しては出てくるのを待つしかないかもしれませんね」
 はぁと、ため息をついて肩を落とす潤ちゃん。これで何度目になるだろう。私のハッカーとしての腕を信用してくれているのは嬉しいのだけれども、流石にいたたまれない。
「この件に関しては私も気になるし、引き続き調査はしてみるわ」
「お願いします」
 彼は律儀に頭を下げてから、続いて二つ目の封筒を開く。こちらに関しては、拍子抜けするぐらいあっさりと情報が集まった。
「彼に関しては、結構ヒットしたわ。長いこと務めていたみたいね。でも、平凡なものよ。詳しくはそっちに書いてあるけど……こんなもんで、本当に良かった?」
「はい、十分です。少し、興味があっただけなので」
 もう一つの依頼は、丹代という元化学教師の経歴についてだった。彼は数年前に、とある中学校の生徒を何人も殺害し、逮捕・起訴され、現在はまだ刑務所の中にいる。事件に関しては近所だったこと、加えて同世代の人間が被害者であったことから、私の記憶にもかろうじて残っていた。また、その中学が潤ちゃんの出身校であることも知っている。だから、“少し興味があった”という言葉が嘘であることも、お見通しだ。大体、興味本位で私を動かすほど、潤ちゃんは馬鹿ではない。
 きっと、その事件は彼にとって、重要なものなのだろう。それこそ、人生を狂わせるほどの。そしておそらく、あとほんの少し深く踏み込めば、彼との因縁もはっきりとする。けれども、私はそれをしない。誰だって、私にだって、知られたくない過去があるからだ。
「いつもありがとうございます。姫幸先輩」
「どーいたしまして。いつでも頼んなさい」
「はい」
 だから今は、私からは何もしないし、何も言わない。ただ、いつか話してくれる時がきたら、その時は私も素直に全てを明かそうと思う。私の因縁。それを解き放ってくれるのはおそらく、彼だろうから。

 話が一段落したところで、私たちはお気に入りのカフェに向かった。そこは小さいながらもマスターのこだわりが随所にこめられている紅茶の専門店で、私たちは毎回テラス席に座って、たわいもない話をしながら、のんびり時を過ごしていた。この時間が私の報酬であるといっても、過言ではない。
「……しかし、よく食べますねえ。その体のどこに、それだけの分量が入るんですか」
「甘い物は別腹なのよ」
 このカフェを気に入っている理由の一つに、平日の昼間限定で焼き菓子が食べ放題のスイーツセットを提供している点がある。ほとんど趣味なのか、丁寧につくられた焼き菓子が、毎回ラインナップを変えつつも、約二十種類くらい取り揃えられているのだ。これはもう、制覇するしかない。
「幸せそうですね」
「うんっ」
 現在半分を食べ終わったところ。まだまだおなかには余裕がある。さて、後半戦もがんばるぞと、皿に手を伸ばしたら、
「こっちまで幸せになりますね」
にこやかに言われてしまい、あやうく手からマカロンが転げ落ちるところだった。
 ……ところで、マカロンってすごく魅力的なお菓子よね。
 発祥は意外なことにイタリア。十六世紀頃にフランスにやってきてから、各地でアレンジされて広まったんだとか。今私が食べているのは、マカロン・パリジェンヌと呼ばれる、皆がイメージするマカロン。つるんとした表面が特徴で、中にクリームやジャムが入っているものだ。他にも、表面がひび割れているもの、メレンゲを使わないものや、ワインを加えてつくるものなんかもあるらしい。
 材料はアーモンドパウダーと卵白、そして砂糖。とても単純なんだけど、だからこそ奥が深い。マカロナージュという、生地を滑らかにする作業が、相当の勘と経験がないとうまくいかないのだ。ほんの少し混ぜ足りなかったり、あとは生地が厚すぎたりすると、あのサクサクの触感が生まれない。繊細なお菓子だからこそ、人々を魅了してやまないのだろう。残念なことに、かなり好みは分かれるので、それこそ気難しい貴婦人といったところか。ちなみに、私は大好き。
 味ももちろん好きなんだけど、注目すべきはあの見た目。たまに外国のお菓子みたいな、極彩色の悪魔がいるけれども、私に言わせればあれは邪道。マカロンはその名に恥じないよう、あくまでも可愛らしいお菓子でなくてはならない。そうすれば自ずと、とるべき色は決まってくる。そう、パステルカラーだ。その点、ここのマカロンは自然な風合いを保ちつつ、きちんと果実の風味も生かされていて、とても好みの味なのである。
「おいしいですか」
「とっても!」
「それは何より」
 潤ちゃんはそこまで甘い物が得意ではないのか、ここに来てもいつも紅茶を頼むだけだ。そして、私が気の済むまで、のんびり待ってくれる。でも今日は珍しく、自分から話題を振ってきた。
「それはそうと、先輩」
「なぁに?」
「いつまで、僕を目くらましに使うおつもりですか」
 一瞬、何のことか分からなかったが、どうやら監視の目を気にしての発言だったようだ。彼の意図を理解した上で、私は言葉を選んで答える。
「あら心外ね。潤ちゃんのことは本当に心から大好きよ」
「でも、それは愛じゃない」
「虚数ではないわね」
「loveじゃない」
「レトリーバーは割と好きよ。私、猫派だけど」
「好きは好きでも、どちらかと言えばfavoriteでしょうよ」
「そんなことないわよ。大のお気に入りであることは、否定しないけど」
 私が真面目に応じる気配がないことが、ようやく彼に伝わったのだろう。あるいは、やっと諦めがついたのか。本日二度目のため息とともに、文句をこぼした。
「先輩、ほんと素直じゃないんだから」
「潤ちゃんにだけは言われたくないわ」
 そして、最後の一種類、マドレーヌに手を掛けようとした時、寒気と共に一際熱い視線を感じた。潤ちゃんもそれに気が付いたようで、
「しかし……。あれ、どうしましょうかね」
困った顔を見せる。
「あれでばれていないとでも、あの子たちは思っているのかしら」
 道路の反対側に目をやると、そこにはわざとらしく新聞で顔を隠した少年と、こちらは隠す気もないのか、メニューに顔を近づけて真剣に悩んでいる、ツインテールの少女の姿があった。



「くそう、参道のやつ……」
――姫幸先輩がお菓子をはむ姿なんて、なかなか見られないのに!
 先輩の好物はスイーツである。普段はそんなに食べる方ではないのだが、甘い物となると話は別。小さな手で愛おしそうに包みながら、ほっぺたをぱんぱんにして、まるで小動物のようにぱくぱくと頬張っていく。貴重なシーンを見逃したことに、しかもそれを親友が独り占めしていることに、思わず目くらましのための新聞を持つ手に力が入る。
――いかんいかん。こんなところで気取られるわけにはいかない。
 そもそも、どうして僕が彼らを発見したかというと、本当にただの偶然だった。
 今は春休みで、化学部の活動もなく暇だった僕は、近所の商店街までぷらぷらと散歩しに来ていた。その途中、見慣れた金色の髪が視界に飛び込んできたので後を追ってみると、なんと参道と一緒にいるではないか。こりゃ一大事だと、そのまま尾行を続けようとしたら、
「ちょっと、そんなに近づいたらばれちゃうよ!」
小さな手に腕を引っ張られ、物陰に誘導された。
「つけるならもっと、うまくやらなきゃ」
「朧月さん!?」
 こうして、僕と彼女は出会ったのである。朧月さんも僕と同じように、商店街で買い物をしていたら二人を見かけたらしい。
「最初は声掛けようかと思ったんだけど、そんな雰囲気じゃなかったんだ」
 彼女の言葉通り、二人は最初、何やら封筒を取り出して、こそこそと話していた。おそらくそちらは、仕事の相談か何かだったのだろう。なんだ、真面目な要件かと、ほっと胸をなで下ろしかけた時、あろうことか二人で喫茶店に入っていくではないか。
「あ、鈴笠くん。向こうのカフェからなら、二人の様子がよく見えるかも」
 朧月さんの提案で、僕らは兄妹を装いながら(カップルと本当は言いたいのだが、装うには彼女の方が、いささか幼く見えすぎる)、二人を監視し続けているというわけである。
「うーん、私は何を飲もうかな……」
 もっとも、当の本人は目的を忘れ、メニュー片手に真剣に悩んでいるが。
「ココアなんてどう?」
「いいねー。あったまりそうだし、それにするー」
 この素直なところが、きっとロリコンたちを虜にしてやまないのだろう。
「すみませーん」
「はーい」
「ブレンドと、ココアをお願いします」
「かしこまりました。ご一緒にケーキはいかがですか」
 ケーキ、という言葉を聞いた瞬間、朧月さんが小さく跳ねた。やっぱり、女の子は甘い物に目がないようだ。
「鈴笠くん、いいかな」
「どーぞ」
「じゃあ、ショートケーキも!」
「かしこまりました」
「ありがとね」
 太陽のように輝く笑顔を見て、不覚にも胸が高鳴る。……僕、本当に殺されるかもしれない。でも、それも本望かもしれない。そんな風に思ってしまった僕は、佐倉さんを笑えない。
 程なくして、注文の品が運ばれてきた。フォークを器用に使いながら、倒さないように慎重に、朧月さんはショートケーキを口の中に運ぶ。
「そういえばさっき、姫幸ちゃんはマカロン食べてたね。いいなぁ」
 どうやら一応、向こう側の様子も気にかけていたようだ。意外と抜け目のない子なのかもしれない。ちょっと彼女を見直そうとしたその時、
「はい」
鈴の鳴るような愛らしい声が、頭上に響いた。声の主は、朧月さんに小さな箱を手渡す。
「わぁ、マカロンだー」
 薄黄色の箱に座っていたのは、ころんとしたピンク色のマカロン。朧月さんはここがお店の中であることも忘れて、夢中で頬張る。ロリコン同好会の面々が見たら、鼻血を出してぶっ倒れかねないぐらいの天使過ぎる映像だ。って、今は見惚れている場合じゃない。
「先輩、いつから」
「最初からよ」
 後ろには参道も、気まずそうに控えている。おそらく二人とも気付いていて、あえて放置していたのだろう。まったく、この人たちには敵わない。
「姫幸ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
 ……まぁ、こうして顔を見せてくれたということは、彼らにやましいところはないということだ。それが分かっただけで、よしとしよう。



 来也くんと希ちゃんの襲来で、デートはお開きになってしまった。けれども、どうせまたこれからも仕事で会うし、何度だって機会はある。
「じゃあ、また」
 別れ際に見せた彼の笑顔は、やっぱりどこか遠くを見ていた。
いつか、彼の凍った時を動かす子が出てくるのだろうか。否、出てきてほしいと、そう強く願うことしか、私には出来ない。


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あとがき
来也と希ちゃん、という謎の取り合わせを書いてみたくて、マカロンへの愛とともにつづりました。
久々に趣味で書いたので、とても楽しかったです。
ロリ最高!!!!!!!
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by hayabusa-l19-96 | 2014-12-25 21:08 | 小説:Seasons裏話