墨で書いた夢

書けるうちにということで、短編を書きました。とてもとても短いですが。
本来ならば本編を進めるべきなのでしょうが、まぁ書きたいものを書いていこうということで。
Seasons新年会でございます。
こんな感じで毎年集まってたら、なんか微笑ましいなと思いまして。

最近、思い付きで短編を書くのが好きになってきました。
キャラが自分の中に戻ってきたのと、もっと自由に動かしてあげたいと思うようになったからかもしれません。
さて、今度は誰を書こうかな。リクエストも、もしあればぜひ。

ではでは。






【墨で書いた夢】

「あけましてー」
『おめでとうございます!』
 真帆さんの事務所で新年会が開かれるようになってから、早十年。今年もいつものメンバーが集い、飲めや歌えやの大宴会が催されている。立食パーティーながらもコンスタントに人が集まるのは多分、真帆さんお手製のお料理をいただけるからであろう。今年はおせちと中華風のオードブルに、お雑煮。ジャンルこそ異色であるが、どれも非常に美味である。どうしてこんなに美味しいのか、作り手の愛が感じられる家庭の味は、皆を虜にしてやまない。
「いつの間にか、また一年越してしまいましたね」
「そうねぇ。時の流れは早いわぁ」
 今年の参加者は、僕――参道潤、ホストの真帆さん。それに、リュウさん、宝生夫妻、姫幸先輩と鈴笠だ。大体、いつもこの面子だが、他の年では希ちゃんや佐倉さん、ロリコン同好会の面々も顔を出したこともある。結構、なんでもありだ。知り合いが知り合いを連れてくるような、そんなノリがある。
「俺、もう、忘れられてるんじゃないかな……」
 すっかり皆いい年なのでお酒も進み、そんな寂しいことを言うのは、リュウさんである。
「そんなことないですよ!」
「だって、もう何年本編に出ていないんだ、俺……」
 ぼやきながら、もう何杯目になるか分からないビールを、ごくごくと飲みほす。もはやヤケ酒と化しており、見ている側としては心配になる。実はリュウさん、こう見えてそんなに飲めないのだ。
「えーっと、たっちゃんの出番は……」
 よせばいいのに、面白がった真帆さんと姫幸先輩が、作者の頭の中のメモ帖を怪しげな手段で取り出す。いやどうして、彼女の頭の中にしかないことを、読み取ることが出来るのか。方法を聞いたら、もう人の道には戻れない気さえする。
 そんな僕の憂いをよそに、彼女たちはペラペラとページをめくる。
「あった」
「しばらく先みたいねー」
 発見場所は遠目に見ても、随分後のようだった。けたけたと笑う二人を見て、ついにリュウさんがきれる。
「何故だー! 何故だー作者ー! スピンオフを俺メインで書くぐらいには、俺の事が好きだったんじゃないのかー!」
「リュウさん落ち着いて」
「飲み過ぎですよ、龍貴さん」
 僕が抑えているすきに、宝生がすかさずビールグラスを取り上げ、鈴笠が代わりに水の入ったコップを渡す。この辺の連係プレーは、年々磨かれつつある。
「龍貴さんはほら、新天地に向かったもので、出しづらいみたいですよ」
「本業も忙しいんだし、気にしない気にしない」
 ピロリロリン。ここでタイミング良く、リュウさんの携帯が鳴った。
「すみません。俺、ちょっと行ってきます」
 あんなに酔っ払っていたのに、仕事となるとモードが切り替わるらしい。しゃきっと背筋を伸ばし、コートをひっかけて部屋を飛び出していく。
「じゃあ真帆さん、皆。今年もよろしくな!」
『よろしくお願いしまーす』
 元日だというのに、新しい職場はなかなかハードのようだ。ちなみに、うちの事務所も真帆さんの事務所も、三が日はきっちり休む。だからしーちゃんも綾野も、今頃は家でくつろいでいることだろう。
「さぁ皆、どんどん食べてねー」
『はーい』
 お正月ぐらいは、のんびり好きなことをするべきだ。僕も好物の栗きんとんに、箸を伸ばした。

 おなかも膨れ、頬も桃色に染まり、心も体も満たされた頃。
「ねぇ皆、書初めでもやらない?」
 どこにしまってあったのか。真帆さんがいそいそと、半紙と筆を取り出してきた。
「いいですね」
 皆酔いが回っているのか、ふらふらとした足取りで席に着く。
「あたしはー、潤ちゃんとずーっと一緒にいられますように」
 金髪金目の美少女、失礼女性が筆を持ち、さらには願い事を書き始めるというシュールすぎる光景に、僕はたまらずツッコミを入れる。
「先輩、短冊じゃないんだから」
「いいのいいの。書初めって、新年の抱負を書くものでしょう?」
 成程と何故か納得してしまった面々は、それぞれ思い思いの願いを筆に込めて走らせる。
「じゃあ俺は、家族みんなで幸せに暮らせますように」
「私は、健康で健やかに暮らせますように」
『これだから落ち着いちゃった夫婦は』
 宝生夫妻の愛娘と愛息子であるところの双子の兄妹は、今は伊紀さんのご実家に預かってもらっているらしい。この二人は絶対に結婚するものだと思っていたが、いざこうして幸せな家庭をまざまざと見せつけられると、独り身にはくるものがある。
 ため息をつきながら辺りを見渡すと、皆意外と真剣に半紙と向き合っていた。ただ、発案者の真帆さんはにこにこと見守っているだけで、参加する気がないらしい。さて、僕もその方向で、と逃げ出そうとしたら、鈴笠に腕をつかまれる。
「参道は、何にするんだ」
 逃げるなよ、と目の奥が言っている。口元は笑っているが、目が本気だ。観念した僕は、席に座りなおす。
「鈴笠こそ」
「俺は、ほれ」
 彼が高らかに掲げた書には薄墨で、しかしはっきりと、こう書かれていた。
“姫を守れますように”
「一途だねぇ」
「勿論」
 当の姫幸先輩は見ないふりを決め込んだようで、真帆さんと何やら談笑している。ううむ、こうなると書いていないのは、僕一人になってしまった。
「よし、決めた」
 一角一角、心を込めて。筆を握るのは中学生以来だが、案外上手く書くことが出来た。
「商売繁盛って、お前」
「探偵が儲かっちゃ駄目なんじゃないか」
「確かに、世の中が平和であることが最も望ましい。けど、それじゃ僕が食べていけない」
「そうなのよね。ジレンマだわ」
 真帆さんの同意も得られたところで、書初め大会は終了した。
 片付けをしながら僕はこっそり、半紙に木蓮の花を追加する。本当の願いなんて、書ける訳がない。だからせめて、添えるだけでも。一人微笑んでから、丁寧に折りたたんで、鞄にしまい込んだ。

 その後、飲み直したら鈴笠が酔いつぶれたことにより、会はお開きとなった。彼は姫幸先輩に任せ、皆と別れる。一人まだ薄暗い道を歩きながら、僕はふと思った。
 絵に描いた餅は食べられない。では、墨で書いた夢は、果たして見られるのだろうか、と。
[PR]
by hayabusa-l19-96 | 2015-01-02 00:00 | 小説:Seasons裏話