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道化の意志

ども。地味に今日バイトだったのを忘れかけていた縡月です。今週は何故3回も入っているのか……。いつもなら一月に一回ぐらいなのに。
まぁ、そんな嘆きは置いといて。
この記事の題名だけでお分かりになられる方もいるかもですが、今日は廣野姫幸と鈴笠来也のお話です。
Seasons本編の第七話、禁黙聖と若干リンクしている部分があるので、其方も読んでいただけるとより分かりやすいかなー、という気はします。まぁ、本編あっての外伝ですしね(笑)
では、more以下でどうぞー。

 鈴笠来也は、その作者である広矢光に憧れ、また自身がクラウンになる事を願った。その作り手である廣野姫幸は、自分のキャラクターが世の中で羽ばたいていく事を祈っていた。だから、二人は共闘して、クラウンを現実に生み出した。とされている。
 しかし、その実はそうではない。
 姫幸の方は確かにそうだったのだが、来也の方は皆さんご存じの通り、憧れを通り越して崇拝していた。勿論それは、廣野姫幸と、それから広矢光の二人に、である。だからこそ、彼は彼女達が同一人物だと知った時に、勢いで告白しまったのである。その結果は……今更蒸し返さなくても良いだろう。
 また、同一人物だったから良かったものの、もし違う人物だったら、彼はどうしていたのだろうか。一方は会った事もない、顔も知らないクリエイター、一方は同じ部活の先輩。……いや、それでも彼はきっと、“広矢光”を選んだだろう。それほどまでに、彼は彼女の事が好きだった。
 何故、来也はそこまで彼女にはまったのか。また、クラウンになりたいなんて言う輩、沢山いただろうに、その中で何故、姫幸は彼を選んだのか。また、一ファンにすぎない彼を相手にしたのか。これはその辺りの事情を語る物語。






 最初からネタばらしをしてしまえば、姫幸の方は半分以上、というかほとんど冗談で鈴笠の提案を受け入れたのである。彼のような輩は、それまでにも沢山いた。その全てが、彼女の知る限りでは、悪行を告発するサイトを作ったり(それは暴走というか炎上しそうで危険だったので、姫幸がやんわりと止めさせた)慈善運動の名目に使ったり(いわゆるタイガーマスク運動的なものである)するだけで、何もしないという者も少なくはなかった。だから、今回もどうせそんなもんだろう、と思っていたのである。
 ちなみに、彼女は一応、そのコネを使い、クラウン運動とも呼べるその流れを全部、把握し監視していた。やり過ぎではないか、とも思うかもしれないが、それは姫幸の責任感と、そんなとんでもない事をやってのけてしまえる能力による所が大きい。
 ところが、そんな彼女の予想をはるかに超え、本気でクラウンになろうとし、なってしまった男がいた。それが鈴笠来也である。
 そこで、より近くで監視する為に、彼女は言葉巧みに、来也を自分のいる学校に入学するよう、誘導したのである。

 その人生まで姫幸の思い通り、彼は彼女の手の中で踊っているにすぎない。
 そう、彼女は思っていた。しかし実際の所、来也はそこまで馬鹿ではない。彼女が自分を誘導しているのに気付きつつ、あえてそこに入ったのだ。広矢光に会う為に。もしくは、彼女に近づく為に。わざわざまどろっこしい手段を用いてまで自分に志望校を変えさせたのには、きっと意味がある。彼はそう思い込んだのだった。
 何故、彼がそれほどまでに光に憧れたか、と言えば、彼は光に救われていたからである。彼は当時いじめを受け、死すら考えていた。それをぶち壊してくれたのが、光の小説だったのである。たかが小説で、と思うかもしれないが、たった一つの言葉が誰かを救う事もあるのだ。それが沢山詰まった物語なら、尚更だろう。
 それ以来、彼は光に夢中だった。文字通り、彼女は彼の希望だったのである。
彼はまず、片っ端から彼女の小説を読んだ。それこそ、一字一句暗唱出来てしまうぐらいに、覚えるまで読んだ。そして、彼女のブログを探し出すと、毎日のようにコメントを書きこんだ。それは小説の感想もあれば、ブログの内容に関するコメントでもあった。彼のような輩は沢山いたので、彼女からそれについて特に返答が返ってくる訳ではなかったのだが、自分の言葉が彼女に届いているかと思えば、彼にはそれだけで十分だった。
 そしてある日、光はこんな事を言った。
「有り得ないとは思うんですけど、クラウンが実際にいたら、良い世の中になるでしょうね。敵陣に入って、闇の世界から悪を打ち砕く、なんて書いてる本人が言うのもあれですけど、すっごく格好良いと思うんです」
 実を言えば、彼女は前々から、自分の小説に関して、その登場人物が世の中にいたらどうなるか、という事については語っていた。だが、このようなコメントは彼が見ている中では初めてだった。だから、来也は真に受け、自分がクラウンになる事を決意したのである。
 しかし、彼が他のファン達と異なる点は、それを姫幸が書いてから半年後に自分がクラウンになる、という趣旨のコメントを書いた事である。だからこそ、彼女は不思議に思ったのだ。何故、この少年は今更になって、こんな事を言いだすのか、と。
 姫幸は一度興味を持ったら、とことん追求しなければ気が済まない性格だった。この性により、来也には嬉しい事に、彼と光の交流は始まったのである。もっとも、場所は彼女が用意したチャットルームで、ではあったのだが。
 彼女は彼にありとあらゆる質問をした。その結果、彼は自分の小説に救われた事、本気でクラウンになろうとしている事、半年間はネットならびに裏の世界の仕組みについて勉強していたという事を聞き出した。彼女は流石に不安になった。同時に、この少年がどこまで出来るのか、見届けたくなったのである。

 そんなこんなで、来也は今の高校にいる。潤に情報を流したのは、もしかしたら自分を止めてほしかったから、なのかもしれない。
 実際、彼は他の誰よりもクラウンになりきっていた。いや、そのものだった、と言っても良いだろう。本当に危ない時は、姫幸も自分のネットワークを駆使して守ってやろう、と思っていたのだが、そんな心配は皆無だった。……文化祭の時までは。

 文化祭。それは最も人が集まり、そして最も警戒が希薄になる時であった。何故なら、姫幸はどこに行ってもそれなりに高い地位に押し上げられてしまう為、クラスを手伝ったり、委員会に顔を出したりと、化学部につきっきりでいる訳にはいかなかったからである。
 その為、彼に頭を下げて、念の為来てもらう事にしたのだった。

 文化祭一週間前。何となく胸騒ぎがして、彼女は受話器をとった。
「あー、もしもし?」
 電話の相手は、彼女が中学時代の頃なんやかんやで知り合った、やのつく職業の男である。
「姫幸じゃねぇか。久しぶりだな。どうした? 何かあったのか?」
 突然の電話にもかかわらず、彼は姫幸の声を覚えているようだった。そして、彼女が自分にわざわざかけてくる時は大抵が厄介者を抱えている時である事も、心得ている。
「いや、まだあった訳じゃないんだけどね……。何かありそうな予感がするのよ」
「ほう。“火喰い栗鼠”と呼ばれた百戦錬磨のお前が、不安がるとはねぇ」
「茶化さないで。それとその名で呼ばないで。昔の事よ」
 火喰い栗鼠。それはまだ彼女が中学生の頃、自分の有り余る力を制御出来ず、片っ端からトラブルにつっこんで解決していく様を見て、誰かがつけた渾名であった。彼女自身はあまり気に入ってはいなかったのだが、この界隈ではちょっとは名の通ったものである。
 そんな彼女が弱気になる、というのは男にとっても初めて見る姿だった。だから、少し様子を見ようとさぐったのだが……。
――あの受け答え、相当追い詰められている。
 彼女とそこそこ付き合いが長いのだろう。彼は大体を察した。
「はいはい、で俺は当日文化祭にいれば良いのね?」
 その上で、真剣になりすぎないよう言葉を選んで話す。
「ええ。来て、普通に楽しんでくれてれば良いわ」
 何も無ければそれで良い。これは保険なのだ、と自分に言い聞かせるつもりで、姫幸はその言葉を相手に告げた。
「何かあったら?」
「あんたなら気配で分かるでしょう? 私もなるべく駆けつけるけど、間に合わなかったらその時は頼むわ」
――あの姫幸が俺に“頼む”とはねぇ。
 女王気質で上から目線、“良いからやって!”が口癖だった彼女が、まさかそんな言い方をするとは。
「そんなに大事なのかい? その後輩君」
 彼は、姫幸にそこまで思われる少年が、少し羨ましくなった。
「あったり前でしょ? なんてったって彼は――」
 そう言いかけて、彼女はその先の言葉が思いつかない事に気が付く。小説家としては失格だが、しかし本当に分からなかったのだ。自分が来也をどう思っているか、なんて。
「彼は?」
「……なんでもないわ。忘れて頂戴」
 結局、適当に誤魔化して、受話器を置いた。

 姫幸は彼に、初めは若干きつくあたっていた。人間的性格的な問題があるか、見極めるためである。しかし、優しく気の弱い良い子だと知ると、それも止めた。元々、姫幸にとって年下は無条件に可愛がるもの。それを邪険にするという方が、土台無理な話であった。
 色々あったものの、今となっては可愛い後輩の一人だ。何としても、守らねばならない。あらゆる可能性を考慮して、出来る限りの手をうち、来る日に備えた。
――これで大丈夫。なはずなんだけど……。
 強気な姫幸には珍しく、この時ばかりは得体の知れない何かを恐れていた。
 そんなこんなで、不安を抱えつつも文化祭当日を迎えたのである。
 結論から言ってしまえば、彼女の予感は見事的中。拳銃の音が開幕のファンファーレとなってしまった。
 姫幸はすぐに気が付き、いち早く駆けつけようとした。その途中、これまた音を聞きつけてやってきた念の為の保険である男に呼び止められる。
「姫幸!」
「……そう、やっぱりあの音、間違ってなかったわね」
 男は、若干真剣味に欠けた所はあるものの、その道のプロである。もしかしたら気のせいかもしれないし、他の音の場合だってある、と楽観視していた姫幸の読みは、これでつぶれた。代わりに、一刻も早く向かわねばならない、という思いが彼女の体を支配する。
「俺も行くよ。姫幸に怪我でもさせたら」
「大丈夫。ここは私の領土よ。自分で守れるわ」
「でも……」
 惚れた女を守らないで何が男か、という信念で動く彼としては引き下がるわけにはいかなかった。姫幸もそれを分かっていたから、
「10分」
「え?」
「いえ、5分でけりをつけるわ。だからそれまでは、手を出さないで」
打開策を出したのだった。彼女はそれだけ言い残すと、するりと男の横をすり抜け、化学室へと足を速める。
「全く、仕方がねぇな」
 彼女が一度決めたらてこでも動かない性格である事も、この男はよく知っていた。
「ま、そんじゃ、大人しく待っていましょうかね」
 だから、何があっても対応できるよう、後方で待機している事にした。

 5分経ち、姫幸が戻って来なかったので、彼は行動を開始した。化学室の場所は、とっくに調べ済みである。
 辿り着いてみると、そこにはすでにヒートアップし終わった姫幸と、おびえる自分の部下二人、呆然とする白衣の少年、そして今にもその中に割り込みんでいきそうな、腰の引けたエプロン姿の少年がいた。彼が入っていっても、状況は好転しない。そこで、男は姫幸に後で怒られる事を承知で、彼をなだめて自らが戦場へと出向いたのであった。

 部下二人を連れ帰り、たっぷりと灸を据えた後、図ったようなタイミングで彼女から電話があった。
「もしもし?」
「あんた、自分の部下の管理ぐらいちゃんとしておきなさいよ」
 いきなりの先制攻撃に、男は若干ひるんだ。しかし、彼女の言う通りなので素直に謝る。
「すまない。こっちも色々立てこんでたんでな」
 実はこの時、彼らが取り締まる地域で盗難事件が多発していた。自分のシマで犯罪が起こっているのを黙って見過ごせない性格だった彼は、部下を動かして警備を強化していたりしていたのである。その所為で、彼らに対する見張りが緩くなっていたのだ。
 もっとも、彼も男。惚れた女に心配かけさせる訳にもいかないので、それ以上は何も言わなかったが。姫幸もそこは心得ているようで、
「ふーん。それは悪かったわね」
と言っただけだった。
「ところで、そいつらは何て?」
 どうやら、彼女の目的は彼を咎める事だけではなかったらしい。目線はもう、その先を捉えている。
「あいつらはなんで、クラウンの正体に辿り着いたのかしら?」
 そう。姫幸はこれを聞く為に、彼に電話をかけたのであった。
 どうせそんなところだろうと予測していた男は、先程部下から聞き出した情報を彼女に話す。
「ああ。信じがたい話だが、うちの組にメールが届いたらしいんだ」
「え、あのセキュリティをかいくぐって来た訳?」
 何を隠そう、姫幸自身が作り上げたシステムだ。そんじょそこらのハッカーでは、歯も立たないはずなのだが。
「そうなんだ。今日、君に迷惑をかけた彼らは、情報担当でな。それで俺よりも先にそれを知る事が出来た、という訳だ」
「ふーん……」
――これは、ちょっと本腰入れて調べてみる必要がありそうね。
「分かった。その件は此方で調べるわ」
「頼んだ。それじゃ」
 電話を切ると、姫幸は早速、そのメールの送り主を調べてみようと思った。ところが。

プルルルル、プルルルル。

 今度は別の携帯電話が鳴り響いた。学校の知り合いなど、プライベート用のものだった。この忙しい時に、と思いつつ名前も見ないで出る。此方にかかってくるもので、用心しなければいけない人物はいなかった。
「はい?」
「あ、先輩。僕です……」
「ああ、来也君」
 電話の相手は来也だった。大方、今日の失態でも詫びに来たんだろう。彼女はそう思った。
「先輩、あの」
「あー、良いのよ別に。気にしないで。あんな振り方した私も悪いんだし」
「い、いえ。そちらではなく」
 しかし、彼の要件はそちらではなく、
「ん?」
「あの人達に情報を流した奴、突き止めるの手伝わせていただけませんか?」
なんと、自ら仕事を請け負いにきたのだった。
「……君まで、此方側につかる事もないのよ」
「そう、ですか……」
 彼は、とても聞きわけの良い子でもあった。というよりは、あまり我儘を言って、彼女を困らせたり、仕事や杞憂を増やしたくないだけなのかもしれない。姫幸がやんわりと止めただけで、来也はすごすごと引き下がった。
「そうそう。君は今まで通り、自分の信念を貫いて頂戴」
 彼の軟弱そうに見えて芯の通ったところは、彼女も気に入っている所だった。
「分かりました。あ、それと」
「今度はなーに?」
「諦めませんから、ね。信念を貫いて良いなら、尚更」
 来也は、本当はこんな事言う気はさらさらなかった。しかし、冒頭で彼女がその話題を出した事で、切り出してみようと思ったのである。
 何故なら、姫幸はそれを気にかけていてくれたのだから。
「……そう」
「では」
 少しだけ晴れやかな気分になって、彼は電話を切った。
ツーツーツー。
 電話を当てていた方の耳が、かすかに赤くなるのを姫幸は感じた。
――私が振り向くかなんて分からないのに……。本当、来也君は良い子ね。
「さ、仕事仕事♪」


 こうして、彼らはネット上では作者と作品、現実世界では先輩と後輩として、それぞれの関係を築いていった。
 お互いに裏の顔は知らずとも、妙な信頼関係で結ばれた二人。相棒というか、パートナーというか。周囲がそれをどう見ているのかは、あえて言わないでおこう。
 これは彼らの想いが生み出した、一人のヒーローの物語。

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最初の方の説明文が長いなー、と思いつつ。
もう少しまとめられれば良かったのですが……時間が(ぇ
まぁ、いつか直す時がありましたらその時には気をつけようと思います。あの設定がないとなんだか話が薄っぺらくなっちゃいますしね。

さて、そんなこんなで、文化祭の裏を書いてみました。最初は、そういう話にする気は全くなかったのですが(ぇ
いや、だって見事に主役食われたじゃないですか。名もなきやーさんに。←
でもまぁ、最後にちょっと格好良いとこあげたから、許してね来也。
本当は違うエピソードでももってきてあげられれば良かったのですが。いずれにせよ、姫幸がからむと犯罪の匂いしかしなくなってしまうので、このような形にさせていただきました。

明日は……出来れば虎季と龍貴の話を終わらせたいなー、と思いつつ。
でも時間を気にして面白くなくなったらなー、とか考えるとちょっと悩みどころです。
まぁ、頑張ってみましょうかね……。

でにゃでにゃー。
by hayabusa-l19-96 | 2011-03-25 10:11 | 小説:Seasons裏話